逆タップ(エキストラクター)による折れたボルトの救出方法
バイク整備を行っていれば、いずれボルトが折れる経験に遭遇する事でしょう。
ボルトをトルクレンチを使用し指定トルクで締め付けて折れる事もあれば、緩める際に錆により劣化して折れる事もあります。
それらは、どの人間が締め付けても緩めても同じ結果になるので、ボルトが折れる事は仕方の無い事です。
今回は、折れたボルトを逆タップで救出する方法を解説します。
是非、参考にして頂きたい。
整備情報
- 時間: 約15分~5時間(1箇所)
- 費用: 約12,000円(※約18,500円)
- ショップ工賃: 約1,300円(1キャリパー)
- 難易度: ★★★★★
※価格は希望小売価格です。通常値引きを行って販売しております。
※OPEN価格の()内はALLメンテナンスで販売目安価格です。
※「※」が付いた道具・工具は、必要に応じて使用します。
注意事項
逆タップは非常に技術力が必要な作業です。逆タップに失敗すると最悪パーツが使用不可能になったり、修理するのに費用が今回掛かる費用の2倍以上掛かる場合があります。
特にM6以下のボルトは難易度が更に上がります。
交換の効かない絶版車のエンジン等の重要なパーツは、熟練されたバイクショップ等のプロフェッショナルに依頼される事をお勧めします。バイクショップに依頼した際、失敗した場合部品交換が必要になる等の作業リスクが非常に高いので工賃単価が上がったり、修理に時間が掛かると高額な費用を請求される可能性があります。トラブルにならないよう事前に発生する費用の見積もりと、失敗した際の保証(作業代金・部品代はどうするのか)を話し合いしておく事をお勧めします。
逆タップ(エキストラクター)とは
逆タップとは、ボルトのねじ山が雌ネジと固着し、ボルトが回らずボルト頭がナメしまった状況下において、ボルトを取り外す事が可能な工具です。
逆タップには、ストレート型とスクリュー型とらせん型の3種類があり、一般的にスクリュー型とらせん型を使用します。
らせん型逆タップ
画像は、らせん型の逆タップです。これまで何度も逆タップを使用してナメたボルトを外してきましたが、らせん型逆タップ最も外し易いのでお勧めです。
スクリュー型逆タップ
画像は、スクリュー型の逆タップです。スクリュー型は、ピッチが細かく下穴に挿入して回すと噛み込んでいくので一見外し易そうに思えるのですが、逆タップが回りすぎてしまい、ボルトが母材側に押し付けられてしまい、外れないばかりか、母材まで逆タップが到達して痛めてしまう場合があります。特に、太めのスクリュー型逆タップを使用する場合は母材に当たらないよう注意が必要です。
逆タップによるネジの救出方法
逆タップを使用して外す流れは、以下になります。
- 折れたボルトにドリルで下穴を開ける。
- ハンマーで逆タップをボルトに叩き、噛み込ませる。
- 逆タップにハンドルを装着し、反時計回りに回して外す。
言葉にすると簡単ですが、整備難易度は最大です。
下穴を開ける際、ドリルビットがボルトの中で折れたり、開いたとしてもドリルビットがボルトに対して垂直ではなく、斜めに入って母材を痛める場合があります。
また、下穴が綺麗に開いたとしても、ボルトが過度に固着していると逆タップがボルト内部で折れる場合があります。これらが、整備難易度が最大の理由です。バイクショップでも断られる場合があるようです。
1.下穴を開ける
ナメたボルトが挿入されているパーツを必要に応じてバイスに固定します。
次に、電動ドリルやエアードリルに、ネジ径より最適なドリルビット(サイズは以下の表を参照)をセットし、ボルト座面に対し垂直に下穴を開けていきます。人間の手で工具を持ち削る為、注意していても斜めに削ってしまうので、少し削ったら角度を確認・修正しながら削りましょう。雌ネジに当たらないよう十分注意して作業する必要があります。
経験上、下穴を開ける際、下記表を参考に可能な限り太いドリルビットのサイズを使用した方が良いです。細いドリルは折れやすく、下穴に入り込むと救出が困難です。下穴が開いても逆タップが細い事で折れる場合があります。特に、ボルト径が6mm以下の作業をする場合、ドリルビットも逆タップも折れやすいです。8mmを越えてくると折れた経験が無いので折れにくい難いと感じております。可能な限り、太めのビットの使用がお勧めです。
※燃料タンクに下穴を開ける場合は、燃料コックを取り外し、内部の燃料を抜いた後、ウエスで抜けきれない残った燃料を吸い取りましょう。燃料を除去しないと下穴を開ける際の熱で火災の原因になります。
ボルト径 | 下穴ドリルサイズ |
6~8mm | 2.8mm |
8~11mm | 4.0mm |
11~14mm | 6.5mm |
下穴を僅か5分で開けるドリルビットチューニング方法
ドリルビットの先端が丸まると削れなくなる為、廃棄する方もいらっしゃるのではないでしょうか。ドリルは、先端の刃をサンダーで削る事で短くなるまで何度でも使用可能です。
具体的なドリルチューニング方法は、ドリルビット先端部の刃の角のエッジを立てる事です。正確な位置は画像でご確認下さい。
刃の角のエッジを立てる事で、下穴を開けるのに30分~1時間掛かっていたものが、僅か5分~10分で開ける事が可能になりました。驚くほど切削能力が向上するのでドリルチューニングを是非お試し下さい。
切削オイル塗布に関して
専用の切削オイルがあれば使用しましょう。
切削オイルがない場合、オイルは使用しない方が良いでしょう。エンジンオイルや浸透潤滑剤を使用すると、滑ってしまい切削能力が落ち作業効率が低下します。
ただ、オイルを使用しないと、ドリルの刃の減りも早いです。その為、刃をサンダーで研ぎながら使用する事をお勧めします。連続使用をすると高温になるので冷ましながらドリルで削りましょう。
2.ネジロック剤塗布箇所は、ヒートガンで温める
ネジロック剤が塗布されている箇所の場合、ネジロック剤の強度によりますが塗布されている状態では外し難いので、ヒートガンで高温まで温めてネジロック剤の効力を落としましょう。
バーナーやガス溶接機で温めるのも良いですが、鉄製の場合に限り使用しましょう。アルミ製には直火を使用しないで下さい。
3.逆タップをハンマーを使用して挿入する
下穴が開いたら、下穴に逆タップをハンマーで強く叩き込みます。
ハンマーで叩かないと逆タップが下穴に噛み込まず、下穴がナメてしまう場合がある為、必ず逆タップをハンマーで叩いて下穴に噛ませて下さい。
4.逆タップを反時計回りに回して折れたネジを救出する
後は、タップハンドルやモンキーレンチを使用し、逆タップがブレないよう注意してボルトの様子を見ながら、ゆっくりと反時計回りに回します。
タップハンドルよりモンチーレンチの方が持ち手が長く力が掛かり易いので外し易いです。
逆タップを回した時点で、空回りする場合の原因・対処法
逆タップを反時計回りに回したが、ボルトが回らず逆タップだけが空回りする場合、原因は3つあります。下記の3点をクリアすれば逆タップは成功し外れます。
- 逆タップが下穴への嚙み込みが浅い:ハンマーで叩く力が弱い事を意味しているので、更に強い力でハンマーで逆タップを叩いて噛み込ませて下さい。おそらく、想像されているより強く叩きます。
- 下穴が浅く、逆タップの先端がボルトに接触している:下穴が奥まで開いていない事が原因で、逆タップが入り込めない状態です。下穴は貫通するのが理想ですが、最低限、逆タップが入り込める分の奥行は必要なので更にドリルで下穴を奥まで開けましょう。
- ネジロック剤の効力が効いている:ヒートガンでネジロック剤塗布箇所を高温にしてネジロック剤の効力を落としましょう。
逆タップが折れた時の対処方法
細い逆タップほど折れ易いです。バイク整備においてM6以下のボルト径が最も折れやすいです。
逆タップは非常に硬い素材の為、逆タップが折れた場合はリコイルという、M7位の下穴を新たに開けて、M6のリコイルを挿入し、雌ネジを作成します。その為には、折れた逆タップごとドリルで揉んで下穴を開けていきます。過去、3回ほど逆タップが折れた経験がありますが、その内の2回はリコイルで雌ネジを作り、1回はタップでワンサイズ大きい雌ネジを作り対応しました。
上記を実践する前に、簡単に折れた逆タップを外せそうなアイデアを以下に挙げます。ポンチ以外試したことが無いですが、実践してみるのも良いでしょう。
まとめ
- らせん型逆タップを使用する。
- 下穴を開ける前に、必要に応じてバイスに固定する。
- 下穴を開ける際、可能な限り太いドリルビットのサイズを使用し、ボルト座面に対し垂直に、確認・調整しながら開ける。
- ドリルビットチューニング方法は、ドリルビット先端部の刃の角のエッジを立てる。
- 下穴を開ける際、専用切削オイルがあれば使用する。切削オイルが無い場合は、オイルを塗布せずに使用しドリルチューニングしながら削る。
- ネジロック剤塗布箇所は、ヒートガンで温めてネジロック剤の効力を落としてから逆タップを使用する。
- 逆タップ挿入時、ハンマーで逆タップを叩き、ボルトに噛み込ませる。
- 逆タップを回す際、タップハンドルやモンキーレンチを使用し、逆タップがブレないよう注意してボルトの様子を見ながら、ゆっくりと反時計回りに回す。
- 逆タップが折れた場合、ドリルで除去してリコイルや、大きいサイズのネジを開ける。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません