サーモスタット交換方法
冷却水は、ラジエターを通って冷却するという事はご存知の事でしょう。
しかし、常にラジエターに冷却水を送って冷やしているわけではありません。
冷却水をラジエターに送って水温を下げ、エンジン内で循環させて水温を上げるを繰り返して水温を約80度程に安定させています。
エンジンは設計する段階で、エンジンに熱が入った状態で内部のクリアランス(ピストンとシリンダー間等)を最適な状態にするように作られています。
なので、水温が60度位まではラジエターには冷却水は流れずエンジンの中を巡回しています。
その循環の機能を果たしているパーツがサーモスタットです。
要約すると、ラジエターに送る弁の役割をしています。
今回はサーモスタットの点検・交換方法について解説します。
是非、参考にして頂きたい。
整備情報
- 交換時期: 1.サーモスタットの簡易点検を参照
- 時間: 約100分
- 費用: 約500円~19,300円
- Oリング(純正部品):約500円
- Oリング作成キット:約17,000円
- オイルストーン:約700円
- 温度計:約700円
- 食器用スポンジ:400円
- ショップ工賃: 約8,400円
- 難易度: ★★★★☆
作業手順
1.サーモスタットの簡易点検
エンジンを始動させ、ラジエター全体を手のひらで覆いましょう。
ラジエターのフィンを保護するカバーが掛かっているようなら外してください。
ラジエター下部は熱が伝わり徐々に暖かくなるがラジエター上部は冷たいままなら正常です。
サーモスタットが開くと一気にラジエター全体が熱くなります。
もし、エンジン始動した数十秒~1分程度でラジエター上部まで熱くなるようならサーモスタットが開いたまま故障しています。
反対に、いつまで経ってもラジエター上部が冷たいままならサーモスタットが閉じたまま故障しています。
2.サーモスタットハウジングの取り外し
サーモスタットの位置を確認しましょう。
サーモスタットは、ラジエター上部に繋がっているホースを辿っていくとホースが複数繋がっている1つのパーツに辿り着きます。
それが、サーモスタットが入っているハウジング(サーモスタットを覆っているパーツ)になります。
1本の配線がサーモスタットハウジングに繋がっていますが、これは水温を取るサーモセンサーの配線です。
水温計へ情報を送る配線で、サーモセンサーの抵抗値を変える事で電圧を変化させ、掛かっている電圧の比率によって水温を計測する仕組みです。
例えば、12Vなら水温100度・10Vなら水温90度と表示させるイメージです。
サーモスタットハウジングの固定ボルトを取り外しましょう。
サーモスタットに繋がっている配線の端子を取り外しましょう。
サーモスタットに繋がっているホースバンドを緩め、ホースを取り外しましょう。
プライヤー・ペンチの使用は変形する可能性があるので控えましょう。
冷却水が出てきます。エンジンに掛かっても大きな問題はありませんのでそのまま溢しましょう。
尚、下には冷却水を受け止める容器を置いておくと良いでしょう。
塗装面に付着しても洗い流せば問題ありません。
サーモスタットハウジングを取り外しましょう。
冷却水を水で洗い流しましょう。
冷却水を塗装面に付着させた状態で長時間放置すると塗装面が傷んだり、熱が入ると跡が残る可能性があるので注意しましょう。
3.サーモスタットの交換
こちらが取り外したサーモスタットハウジングです。
サーモスタットハウジング内には、サーモスタットが入っています。
サーモスタットハウジングの固定ボルトを取り外しましょう。
プラスチックハンマーで衝撃を与えサーモスタットハウジングを分割しましょう。
注意点として、マイナスドライバー等をハウジング間に割り込ませとハウジングが傷つき冷却水が溢れる可能性があるのでやめましょう。
サーモスタットハウジングを分割するとサーモスタットが乗っています。
サーモスタットを取り外しましょう。
画像のように液体ガスケット(赤い部分)が使用されていると、サーモスタットにも付着している場合があり外し難い時があります。
外し難いようなら、プライヤーで軽く挟みながら力を加えると容易に外れます。
この後、点検して正常なら再利用するので破損させないように注意しましょう。
液体ガスケットが使用されている場合、スクレーパーでサーモスタッドハウジングに付着している液体ガスケットを除去しましょう。
スクレーパーを使用する際は、スクレーパーの中央に人差し指を置いて使用しましょう。
片方に重心が偏ると、液体ガスケットのみならずハウジング自体を削ってしまう場合があるので注意しましょう。
また、スクレーパーの先に手を置いて怪我をしないように注意しましょう。
ガスケット剥がしを怠ると組み上げた際に均一な面にならず冷却水が漏れる可能性があります。
重要な工程なので液体ガスケットが使用されている場合は必ず行いましょう。
Oリングが入る部分に液体ガスケットが付着しているようなら、精密ドライバーのマイナスを使って除去すると良いでしょう。
サーモスタットハウジングの面出し
面出し(つらだし)とは、ガスケットを除去した後に金属の面を均等に出す作業です。
必須ではありませんがオイルストーンをお持ちであれば行いましょう。
オイルストーンの両端と真ん中を軽く持ち、撫でるようにスライドさせます。
詳しくは、オイルストーンの使い方をご覧下さい。
4.サーモスタットの点検
サーモスタットが正常に動作しているか点検していきましょう。
サーモスタットが開く温度は大体60度から開き初め80度で全開になります。
これから行う事は、水のいれた鍋にサーモスタットを入れ温度を上げていき実際に動作するかを確認していきます。
サーモスタットに針金を通した後、水を入れた鍋に入れましょう。
針金は、鍋の底にサーモスタットが接触しないために取り付けます。
火をいれて水温を上げていきます。
温度計があると開度のタイミングが分かるので良いでしょう。
尚、使用する温度計は100度以上の製品を使用しましょう。
沸騰したときに100度以上になるので破損する可能性があるので注意です。
上記画像は、サーモスタットが閉じている状態です。
エンジンが冷えている状態では、この密閉状態でラジエターへ繋がる通路へは流れずエンジン内部を循環しています。
上記画像は、サーモスタットが開いている状態です。
エンジンの温度が高くなるとこの隙間からラジエターへ繋がる通路へ水を流します。
サーモスタットの仕組み
サーモスタットの内部には、ワックスが封入されています。
このワックスが冷却水の温度によって高温になると膨張し、スプリングを押し縮めてサーモスタットの弁が開く仕組みです。
サーモスタットが故障している場合の症状
サーモスタットが劣化すると、開いたまま閉じ無くなる場合か反対に閉じたまま開かなくなる場合があります。
各症状は、以下の通りです。
- 弁が閉じたままの状態:水温が上がり続けるので、水温計の針が振れエンジンはエンジンレスポンスが悪くなりアイドリングが不安定(熱ダレ)になります。いわゆるオーバーヒート状態になります。
- 弁が開いたままの状態:水温が上がらないので、水温計の針が振れずエンジンは回りますがパワー感が無くなります。いわゆるオーバークール状態になります。
5.サーモスタットハウジングのタップ・ダイス・清掃
ジョイント部分に冷却水の汚れがある場合は清掃しましょう。
次第に金属が腐食してきて浸食するとジョイントに穴が開く場合があります。
塗装されていて、塗装が剥がれているようなら、ジョイントだけ再塗装する事をお勧めします。
絶版車になるとパーツ入手が困難になってくるのでメンテナンスで延命する方向で整備していくと良いでしょう。
画像のような食器用スポンジの緑部分はスコッチブライトと呼び研磨材です。
紙やすりが繊維仕様になったものと考えて頂けると分かりやすいでしょう。
このスコッチブライトを使用する事で、紙やすりとは違い変形して局面の汚れも除去できます。
スコッチブライトでジョイントを磨きましょう。
サーモスタットハウジングが塗装されている場合は、腐食もしくは錆を除去してから再塗装する必要があります。
再塗装しなければ腐食・錆の進行が進みいずれジョイントに穴が開いて、破損したジョイントが冷却水の通路挟まり冷却系に不具合が発生する可能性があります。
タップ・ダイスを使用してねじ山を清掃しましょう。
ねじ山に異物が付着している状態でトルク管理すると、締め付けトルク不足になる可能性があり冷却水が漏れてくる可能性があります。
正確なトルク管理をするために、タップ・ダイスを使いねじ山を清掃しましょう。
詳しくは、タップ・ダイスの使い方をご覧ください。
6.サーモスタットハウジングの取り付け
サーモスタットをハウジングに取り付けましょう。
向きに指示がある場合は従いましょう。
参考車両のサーモスタットの場合、穴がある位置をサーモセンサーに向けて取り付けます。
新品のOリングをサーモスタットハウジングに取り付けましょう。
Oリング等のゴムのガスケットの場合は再利用は出来ません。
一度利用すると、ゴムが潰れてしまうので再利用して組み付けた場合、ガスケットの役割を果たせず冷却水が溢れてくる場合があります。
もし、廃盤部品ならばOリング作成キットを使用すると良いでしょう。
Oリング作成キット購入はこちら
サーモスタットハウジングを取り付けましょう。
Oリングがずれないように注意して下さい。
サーモスタットハウジングの固定ボルトを指定トルクで締め付けましょう。
サーモスタットを車体に取り付けましょう。
ホースを取り付け、固定バンドを締め付けましょう。
サーモセンサーの端子を取り付けましょう。
サーモスタットハウジングの固定ボルトを取り付けましょう。
まとめ
- サーモスタットは、ラジエターとエンジン間に配置されている
- サーモスタットハウジング取り外し後、冷却水を水で洗い流す
- サーモスタットハウジング分割時、プラスチックハンマーで衝撃を与えて分割する
- サーモスタットハウジング分割後、サーモスタットハウジング接触面を清掃
- オイルストーンをお持ちなら面出しする
- 液体ガスケットが使われている場合、スクレーパーで除去する
- オイルストーンをお持ちなら面出しする
- サーモスタットハウジング分割後、Oリング溝み液体ガスケットが付着している場合は精密ドライバーのマイナスで清掃する
- サーモスタットハウジング取り付け前、ジョイントの腐食を清掃する
- 塗装されている場合で塗装が剥がれているようなら、再塗装する
Q&A
- ラジエターホースに亀裂が入って冷却水が漏れてきた
- プライヤーやペンチ等を使用するとホースに亀裂が入る場合があるので使用は控えましょう。また、経年劣化によりホースが硬化し亀裂が発生するので10年をスパンとして一式交換すると良いでしょう。純正パーツの製造は7年で終了しその後は在庫のみの販売になるので早めに交換しましょう。HONDAは特に他メーカーに比べ在庫のストックが多くないように感じます。
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