ピストン
目次
ピストン(エンジン)とは
まず、バイクに使われているピストンというと、ブレーキキャリパー内にあるピストンと、バイクの心臓部と言われるエンジンの核となるピストンがありますが、この記事では、エンジンのピストンについてお話していきたいと思います。
人類が発明してきたさまざまな物の中で、もっとも偉大な発明と言われているのが、エンジン(内燃機関)だとも言われていますが、ピストンはそのエンジンがエンジンとして機能する。つまり、燃料の燃焼を回転力に変換するために無くてはならない部品なのです。
エンジンがきちんとアイドリングし、スロットルをひねれば回転の上昇と共にトルク(回転力)が増して行くためには、3つの要素が不可欠です。
その3つの要素とは、「良い圧縮」「良い混合気」「良い火花」で、ピストンは主に「良い圧縮」に関係しています。
エンジンの中では、常にピストンが上下に往復運動をしており、ピストンが下降する際に混合気を吸入、上昇する時に吸入した混合気を圧縮し、スパークプラグにより混合気を爆発(燃焼)させ、圧縮した混合気の体積が急激に膨張する圧力でピストンを押し下げ、エンジントルク(回転力)の元となる力を発生させているのです。
そして、燃焼により下降したピルトンは再び上昇し、燃焼後のガスをエンジンの外へと押し出すことによって排気しています。
この「吸入」「圧縮」「燃焼(爆発)」「排気」という4つの工程を下降2回、上昇2回の計4回ピストンがストロークするエンジンが、現在もっとも一般的な「4ストロークエンジン」であり、ピストンはこのすべての工程を行うために2往復し、クランクシャフトは2回転することになるのです。
ちなみに、2ストロークエンジンの場合、簡単に言うと、「吸入と圧縮」「爆発と排気」という組み合わせで、4ストロークエンジンが行っている4つの工程を、ピストンが1往復するだけで完了させることができるエンジンということになります。
このように、4ストロークエンジンでも2ストロークエンジンでも、ピストンはエンジンに欠かすことのできない工程をすべて担っていると言っても良いほど、重要な部品と言うことになるのです。
更にピストンは、多くの部品の中で、常に高温高圧の環境にさらされている部品の一つであり、そのバイクに求められるエンジンの特性に合わせる必要があるため、熱対策、強度、形状などさまざまな要素が綿密に計算され開発されています。
さまざまな工夫がされたピストン
先述してきたようにピストンはエンジンにとってもっとも重要なパーツであるため、各メーカーともさまざまな工夫を凝らし、アメリカンタイプや、大型ツアラーのように比較的低回転のトルクを重要視するエンジンなのか、それとも、レーサーのように高回転までストレスなく回り、高回転域を多用するエンジンなのかなど、そのエンジンに求められる性能に合わせて設計されています。
ここからは、ピストンに使われている素材や、さまざまな工夫が施されたピストンなどをご紹介していきたいと思います。
ピストンの材料
ピストンに一般的に用いられている素材は、アルミを基本としたアルミ合金が使われ、市販車などでは、砂型に溶かしたアルミ合金を流し入れて成型する鋳造が、競技車両などのごく一部の車両では、数十トンもの圧力で成型する鍛造が用いられています。
上記では、ピストンは高温高圧にさらされているとお話していますので、「アルミで大丈夫なのか?」よ思う方もいらっしゃると思いますが、アルミに銅やシリコンなども混ぜたアルミ合金にすることにより、ピストンに求められる「強靭性」「耐熱性」「耐摩耗性」をクリアーしています。
ピストンに求められる性能で、もっとも重要なことが、軽量で熱にも耐えられる構造であることですが、一般的なガソリンエンジンで、混合気の燃焼温度は1600℃~2000℃を超えます。
そして、アルミ合金が解ける温度は660℃ですので、普通に考えればピストンはすぐに溶けてしまいそうですが、金属に表面には熱境界層という熱で覆われた層があり、通常は直接ピストンにその熱が触れることが無いため、ピストンは解けることがありません。
また、アルミ合金を使用している理由は、軽量であることもさることながら、熱伝導率に優れていることがあげられ、ピストンが受けた熱は、ピストンリングなどを通じてシリンダーに素早く逃がされることによって、ピストン自体が高温になり過ぎないように冷却しているのです。
過去には、マグネシウム合金や、一般的なスチール(鉄)などを使用したピストンもありましたが、熱伝導率が悪く、今では市販車からレース用のエンジンでさえ、ピストンの素材にはアルミ合金を使用することが一般的です。
ピストンの形状(スカート部)
ピストンは大まかに言うと、円柱状の形をしていますが、ピストンピンよりも下にある部分をスカートと呼び、エンジンの特性によってさまざまな工夫がされている部分になります。
ピストンは爆発によって押し下げられる際、その圧力によってピストンピンを軸に振られてしまい、「カンカンカン」という打音(
スラップ音)が発生することがあり、また、上記でお話したように、燃焼ガスから受ける熱をできるだけ早くシリンダーに逃がすことが、ピストンの破損を防ぐためには必要です。
そこで、スカート部を長くすることで、ピストンの首振り最小限に抑え、シリンダーとの接触面を増やすことでシリンダーへの放熱を助けることが、ピストンスカートの主な役割ということになります。
ソリッド・スカート・ピストン
もっともシンプルな筒状で、シリンダーとの接触面積が大きいため放熱性に優れていますが、重量が重たくなるため、現在ではほとんど使われることが無い形状です。
スリッパ・スカート・ピストン
上記のソリッドスカートピストンのスカート部の一部を削り軽量化した形状になっています。
現在のエンジンのピストンは、ソリッドスカートとスリッパスカートの2つの形状を基本としてさまざまな工夫がされています。
スプリット・スカート・ピストン
スカート部にスロット(切れ目)を入れることにより、ピストン自体に弾力性を持たせ、スラップによる衝撃を吸収したり、熱による膨張を逃がすことができるため、シリンダーとの隙間を狭くすることができます。
スロットの形状は、T型U型などがありますが、現在ではほとんど使われていない形状です。
ストラット・ピストン
ピストンボス(ピストンピン)部分に、鋼板やアンバー鋼で補強することで熱膨張を抑え、シリンダーとの隙間を小さくすることができ、鋼板を使用したものをスチールストラットピストン、または、オートサーミックピストンと呼びます。
アルミ合金よりも重たい素材となるため、従来のピストンよりも重量が重たくなってしまうといったデメリットがあります。
ショートスカート・ピストン
前週に渡りスカートを短くした形状のピストンで、軽量化したことにより高回転に対応するとともに、バイクなどの比較的小型のエンジンでは、クランクケースに接触することを防ぐことができます。
ただし、シリンダーとの接触面積が小さくなるため、放熱性がやや劣り、エンジン本体の冷却性能や、エンジンオイルの管理などがシビアになるため、一般的な市販車には向きません。
ピストンの形状(ヘッド部)
ピストンスカート以外にも、ピストンヘッド部にも形状の違いがあり、その形状により吸入された混合気の流れ(スワール渦やタンブル渦)が変化するため、燃焼効率が変わると共に、圧縮比などにも影響します。
また、下記にご案内するどちらの形状においても、近年のエンジンは高圧縮比傾向にあるため、吸排気バルブとの干渉を防ぐための逃げ(バルブリセス)が設けられています。
凹型ヘッド
一般的な市販車のほとんどが採用している形状は、ピストンヘッドが中心に向かって凹んでいるタイプです。
この形状は爆発の圧力の立ち上がりが緩やかなため扱いやすさを重視したい場合に採用されます。
凸型ヘッド
凹型ヘッドとは対照的に、中心部が盛り上がっているタイプの形状で、もともと半球状の燃焼室をさらに狭くすることで圧縮比を上げ、トルクを向上させる効果が期待できます。
高トルクになる分どちらかと言えばピーキーで扱いづらい特性になってしまうため、モアパワーを求めるチューニングや、サーキット走行なども想定したバイクに向いています。
ピストン形状の工夫
上記でご紹介したさまざまなピストンスカート形状と共に、現在のピストン形状は大きく分けて2種類の形状を基本としています。
円すい状ピストン
ピストンを横から見た際、ピストンヘッドの直系が、スカート下部よりも小さくなっています。
もっとも熱の影響を受けるピストンヘッドの軽を小さくしておくことで、熱膨張したときにピストンヘッド部とスカート下部の径が均一になるように計算されています。
楕円ピストン
ピストンスカートを下部から見た際、ピストンピンが通るピストンボス方向の径が、その直角方向の径よりも小さくしてあり、楕円になっています。
これは、ピストンボス部は強度を確保するために肉厚になっているため、その他に比べて熱膨張量が大きくなる傾向にあるため、予め小さくしておくことで熱が入ったときに真円に近くなるように計算されているのです。
番外編長円ピストン
このピストンは、ホンダが1994年に300台限定で520万という驚異的な価格で販売された「NR」に採用されたピストンで、もともとは2ストロークエンジンに4ストロークエンジンで勝つために開発されたエンジンです。
特徴は2本のシリンダーを繋げたような形状で、吸気排気バルブを4本ずつ、計8本のバルブと、1つのピストンにつき2本のチタン製コンロッドを備え、プロトタイプでは2万回転を超える超ショートストロークエンジンでした。
本来の目的であるレースでは思ったような成績は残せず、市販車に関してもバブル崩壊などの影響もあり200台近くが売れ残ったとも言われています。
ピストン交換が必要な時とは?
市販車を普通に使っているだけでは、まずピストンを交換することはほとんどないと思いますが、エンジンチューニングや、出力が低下してしまったエンジンを修理するためなどの際に、ピストン交換を必要とする場合があります。
ボアアップによるチューニング
ボアとはシリンダーの直径のことで、シリンダーブロックのボアを大きくすることで排気量を上げ、エンジン出力の向上を狙ったチューニング方法がボアアップです。
シリンダーの直径を大きくすれば、当然ピストンの直径も大きくする必要があり、ピストン、やコンロッドなどがセットになった商品が市販されています。
オーバーサイズピストンに交換
軽度の焼き付きや、経年劣化により、シリンダーが摩耗してしまった場合には、ごく僅かにシリンダー表面を研磨し、その研磨量に合わせてサイズを大きくしたオーバーサイズピストンを用いることで、本来の圧縮圧を取り戻す修理方法です。
研磨する量はごく僅かであるため、基本的には上記のボアアップのように排気量がアップすることはなく、大幅なパワーアップはできませんが、本来そのエンジンの持っている能力が甦らせることはできます。
ピストンはエンジンの発生する力を大きく左右するパーツであるため、年式が古く走行距離が多いバイクであれば、一度専門ショップなどで圧縮比を計測してみるのもオススメです。
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