トルクレンチの使い方
安全なバイクを組む為にトルクレンチの使用は必須ですが、取扱説明書を読まずに使用されている方も多いかと思います。
トルクレンチは片手で使用しているでしょうか?
プリセット型トルクレンチは、何度もカチカチしていませんか?
最下限値にセットして保管しているでしょうか?
トルクレンチは間違った使い方をすると性能を発揮できず精度が高いトルク管理はできないので、今一度確認してみましょう。
今回は、トルクレンチの使い方について解説します。
是非、参考にしていただきたい。
整備情報
- 整備頻度: 全ボルト・ナットの締め付け
- 時間: 約1分
- 費用: 0円~43,500円
- トルクレンチ代:約17,500円(12~60N・m) 約 26,000円(40~200N・m)
- 難易度: ★☆☆☆☆
作業手順
1.トルク単位を確認する
※クリックすると拡大します。
サービスマニュアルに締め付ける際のトルクが書かれているので、締め付けトルクはサービスマニュアルに従って設定しましょう。
トルクの単位には2種類あります。
- kg-m(キログラムメートル)
- N-m(ニュートンメートル)
kg-mの単位に関しては昔のバイクに表記されています。
サービスマニュアルやトルクレンチの表記も昔の製品はkg-mで書かれ今の市場に出回っている製品はN-mで書かれています。
1kg-m=9.8N-mです。
誤差が0.2N-mあるので締め付けるトルクが大きくなるほど誤差も大きくなります。
なので、サービスマニュアルとトルクレンチの単位が異なる場合は、トルク単位を変換して締め付けを行う必要があります。
kg-m・N-m 締め付けトルク単位変換表はこちら
KTCのデジラチェ等のトルク単位変換機能が備わったトルクレンチを使用すると、トルク単位変換表を見る必要も無く便利です。
2.締め付けトルクを設定する
※クリックすると拡大します。
サービスマニュアル(上記画像)にボルトの締め付けトルクが記載されています。
ボルトやナットに各々締め付けトルクが指定されているものを、指定トルクといいます。
指定トルクの記載が無いボルトやナットには標準トルクで締め付けます。
標準トルク一覧表はこちら
3.トルクレンチにソケットを取り付ける
対象からなるべく短い距離になるようにソケットやエクステンションバー組み合わせましょう。
エクステンションバーを使用するとソケットが斜めに傾きやすくなるのでボルト・ナットの頭がナメ易くなります。
ナメにくい組み合わせ
番号順にナメにくいので参考にして下さい。
- ショートソケット
- ディープソケット
- ショートソケット+ショートエクステンションバー
- ディープソケット+ショートエクステンションバー
- ショートソケット+エクステンションバー
- ディープソケット+エクステンションバー
4.トルクレンチでボルト・ナットを締め付ける
1.持ち手は、基準線を中心に持つ
トルクレンチの持ち手には基準線と呼ばれる線が入っています。
基準線に対して、中指を合わせて握ります。
基準線は握る箇所の目安として使用するのですが、もし基準線より前だったり後ろを握ってトルク管理すると設定した値より前後するので正確なトルク管理ができません。
特にエンジンなどトルクの精度が求められる箇所では、エンジンが回らない(締め付け不足でクランクケースのメタルが円になっていない等の要因)等、出来上がりに大きく影響してきます。
経験で感じた事なのですが、KTCのデジラチェのようなトルクレンチの長さが短い製品は誤差が大きく現れるようなので、必ず持ち手の中心を握りましょう。
2.ナット側を片手で垂直に引く・押す
トルクレンチ使用時はナット側に取り付け、持ち手を片手で持ち、垂直にゆっくり力を加えましょう。
上記画像の一般的なプリセット型トルクレンチは指定トルクになると「カチッ」と感触が手に残るので1回目の感触でトルクレンチの使用を止めて下さい。
2回・3回「カチッ、カチッ」と何度もトルクを掛けると、プリセット型トルクレンチはオーバートルクになります。
TONEプリセット型トルクレンチの使い方
KTCプリセット型トルクレンチの使い方
ラチェットやエクステンションバー部分には、手を触れ無いよう注意しましょう。
手でラチェット部分を押さえつけて握るとトルクに誤差が生じる場合があるので、片手でトルクレンチを使用します。
注意事項の詳細
ナット側でトルク管理
ボルトとナットで構成されている場合は、ナット側にトルクレンチを取り付けてトルク管理を行います。
その他のボルト・ナットも同様に、ボルト側ではなくナット側でトルク管理を行います。
尚、ボルトのみの場合はボルト側をトルク管理します。
複数ねじがある場合、内側から外側へ対角線上に段階的に締め付ける
複数のねじを締め付ける際には、内側から外側へ対角線上に締め付けます。
エンジンを整備する場合は必ず守って下さい。
ネジの取り外しは外側から内側に対角線上に緩めましょう。
プリセット型トルクレンチは、何度もカチカチしない
プリセット型トルクレンチに限り、締め付け時にカチッという音と振動により設定したトルクになったことを知らせてくれます。
1回目のカチッという音と振動で、既に設定されたトルクで締め付けられています。
2回目以上のカチッという音と振動が発生させた際には、すでに設定したトルク以上にトルクが掛かってしまいます。(オーバートルク)
経験談ですがトルクレンチの許容値の最下限値に近いほどオーバートルクになり易くなると感じました。
これは、KTCやTONEのトルクレンチ使用方法にも同様に書かれています。
TONEプリセット型トルクレンチの使い方
KTCプリセット型トルクレンチの使い方
トルクレンチの保管方法
プリセット型トルクレンチの保管は測定範囲内の最下限にトルクをセットして保管しましょう。
測定範囲が40N-m~120N-mのプリセット型トルクレンチの場合は、最下限値は40N-mとなります。
なので、40N-mのトルクにダイヤルを合わせて保管します。
プリセット型トルクレンチは、ダイヤルを回して緩めると測定範囲より下回ってしまいます。
要するに40N-mでロックされず30・・・20N-mと下がってしまうので目盛りを確認して測定範囲の最下限値にセットする必要があります。
デジタル式・板バネ式は設定する必要は無いので使用後はそのまま保管して頂いても問題ありません。
トルクレンチの点検について
トルクレンチは、2~3年に1度は点検を行いましょう。
使用頻度や保管状況によってトルクレンチの精度に誤差が発生します。
高精度なトルクレンチの誤差率はおよそ4%以内ですが、Amazonで人気のエマーソンのトルクレンチを10年近くしようしたものは誤差率が15%にまでなりました。
高精度の製品と比べて約3.8倍もの誤差があります。
整備の出来上がりを左右するのはトルク管理なので点検も定期的に行いましょう。
まとめ
- トルクレンチ使用時、ナット側を片手で垂直に引く・押す。
- トルクレンチ使用時、ボルト・ナットに短い距離になるようソケット・エクステンションバーを組み合わせる。
- トルクレンチ使用時、内側から外側へ対角線上に締め付ける。
- プリセット型トルクレンチ使用時、何度もカチカチしない。
- プリセット型トルクレンチ保管時、測定範囲の最下限値にセットして保管。
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