整備する前に知っておきたい、「ねじのメカニズム」
バイクは多くの部品がねじで結合されています。溶接、リベット、接着の永久結合方法とは異なり、非永久結合という分解を容易にするためにネジは必要不可欠な部品です。
ねじは整備する上で必ず取り外し・取り付けを行いますので、整備の基本とも言えます。しかし、ネジの使用されている箇所によっては、品質上大きな問題を引き起こす可能性があるのでネジの仕組みを理解する事が必要です。
六角ボルトは、一般標準ボルトと高力ボルトに分かれる
六角ボルトの頭に、数字や記号が振ってある場合があります。
記号 | なし | 又は | 10 | 12 |
強度区分 | 5.8 | 8.8 | 10.9 | 12.9 |
引っ張り強さ | 50~70kg/㎟ | 80~100kg/㎟ | 100~120kg/㎟ | 120~140kg/㎟ |
ボルト区分 | 一般標準ボルト | 一般標準ボルト | 高力ボルト | 高力ボルト |
六角ボルトにはボルトの材質によって強度記号が設定してある場合があります。ボルトは、一般標準ボルトと高力ボルトに分かれます。
組立時、高力ボルトの配置を間違えないようにしましょう。パーツ毎にケースを分けて保管しておくと組立時に間違わずに済みます。
一般標準ボルトは、トルクの指定がない限り、標準締め付けトルクで締め付けますが、高力ボルトは指定トルクで締め付けましょう。
ボルト頭に数字が書いてあればサービスマニュアルの指定トルクで締め付けと判断すると良いでしょう。
強度記号が無い6mmのSHボルト(SH:SmallHead 二面巾8mmでねじの大きさ6mmのフランジボルト)は全て一般標準ボルトとして扱います。
強度記号が無いDRボルト(六角の頭が肉抜きされたフランジボルト)は、フランジのつば外径により区別されます。同じボルト頭径でも、つばが大きいものは、高力ボルトです。
つばの大きさは、標準ボルトはボルト頭径ほどのつばですが、高力ボルトは、ボルト頭径より広いつばをしています。
UBSボルトは、高力ボルトになります。外観上の違いは、ボルトの首下にアンダカットといいクボミがあります。UBSボルトには、強度記号が記してあるものと、無いものがあります。座面には、5~60´のわずかな角度が付けられています。いずれにしろ、サービスマニュアルの指定トルクで締め付けましょう。
引用:http://furattoclub.blogspot.com/2014/05/tlr200.html
ねじの締め付け力について
ねじは、二つ以上の部品を結合した際、それらの部品が緩んだり、脱落したり、隙間が開いたりしないよう、結合している状態を維持する必要があります。つまり、ねじは、結合部品に対して十分な締め付けが行われている事が最も重要です。ねじによる結合体が使用中にその機能を維持するために十分な締め付け力を適正締め付け力といいます。
1本のボルトによる締め付け力は、ボルトの軸方向のひっぱり力に等しくなっています。ボルトの締め付け力と同じ意味で軸力と使う場合があります。
ねじの締め付けによって与えられた締め付け力が、エンジンの振動や経年により締め付け力が弱まることをネジの緩みといいます。
初期の締め付け力が適正でも、エンジンの振動等により緩みが発生しその緩みげ原因で、部品が破損する場合があります。なので、使用初期における接合面のなじみ、へたりなどにより避けられない締め付け力の低下対策として、一定期間経過した後に締め付けを行う事が望ましい場合があります。これを増し締めとよびます。バイクの場合、スポークの張りや、シリンダヘッドボルトがこれに当たります。
ねじの締め付け力は、ネジの強度、締め付け物の強さ等により決められています。特に重要な箇所では正確に締め付ける必要があります。例えば、コンロッドベアリングキャップや、クランクケースは、締め付け力が適正値より大きいと、部品が変形し、オイルクリアランスが狭くなり、ベアリングの焼き付きを引き起こす場合があります。反対に、締め付け力が弱いと、コンロッドの大きい外力変動により、ナットやベアリングキャップが脱落してエンジンブローする可能性があります。
締め付けトルク
ねじの締め付けで重要なのは締め付け力です。締め付け力とは先にも話したように「軸力」です。しかし、軸力を測定するのは困難です。工具は入手可能でも非常に高価です。
そこで、軸力は締め付けトルクに比例する事を利用し、締め付けトルクによるトルク管理がバイク整備においては一般的です。私達が使用しているトルクレンチが、それに当たります。
しかし、締め付けトルクは、一定条件の中で軸力との比例関係にあるので、勿論、条件が異なれば締め付けトルクで締め付けても、軸力は変わっている場合があります。
ネジ部が乾燥 | 灯油塗布 | オイル塗布 |
μ=0.35~0.54 | μ=0.22~0.34 | μ=0.09~0.14 |
表は、ネジ部に油脂類が付着した場合の摩擦係数の一例です。締め付けトルクと締め付け物の材質により、μは大幅に変わります。ネジ部が乾燥した状態のネジ部に与えられた締め付けトルクの88~92%は座面やネジ面の摩擦で消費されます。軸力に変わるのは、僅か8~12%ですが、μが低くなれば軸力に変わる比率が大きくなります。つまり、μが小さいほど軸力は上がる事になります。
また、ネジ部が乾燥している状態の場合、ネジの脱皮が繰り返す為、μの変動は大きくなる。
サービスマニュアルにオイル塗布の指定がある箇所は、この軸力を安定させる必要がある重要な箇所を示すので、必ず、オイルを塗布して締め付けましょう。
通常の、オイル塗布の指定のない箇所はオイル塗布する必要はありませんので、無潤滑のまま締め付けましょう。
ネジ部や座面を潤滑すると、μが小さくなり、ネジの緩み止め効果は低くなってしまいます。しかし、逆にネジの軸力が上がるので、締め付け力は十分に得られる事で緩みやすくなる事はありません。つまり、エンジン内部にオイル塗布箇所は緩みやすくなると危惧する必要は無いという事です。
締め付けトルクは、ねじの大きさ、強度、締め付け部品の強さ等によって決められています。適正な締め付けトルクは、ある幅をもって決められています。それは、トルクレンチの精度やネジのμのばらつきを考慮されてサービスマニュアルには記述されております。基本、トルクの下限から上限の中間値表示が基本となっています。
ネジの緩み
ネジが緩む場合のほとんどが、繰り返し結合体に外力が加わる事が原因で、軸力が低下します。
一般に、締め付け物を締め付けた際に、ネジの反力はネジ部品の座面で受けています。この結合体に繰り返し外力が加えられて、締め付け物が座面に作用する圧縮応力に耐えられなくなり、時間とともに座面のヘタリ(陥没)が進行するとねじの軸力が低下します。
通常、ある程度は初期の馴染みによる軸力低下は避けられません。しかし、初期の締め付け力を充分に与えておくと、へたりや馴染みによる軸力低下があっても、必要な軸力は確保でき、緩みは発生しにくくなります。
ネジの取り付け時に、座面やネジ部にゴミ等の異物が付着していると、正規の締め付けトルクで締め付けても充分な軸力は上がりません。充分な軸力が得られていたとしても、異物が破壊された時や締め付け物に陥没した際は、急激に軸力が失われ、軸力の低下のみならず、ボルトが緩む可能性があります。なので、必ずネジ部に汚れが付着している場合は、ねじ山や座面を清掃してからボルトを取り付ける必要があります。
緩み止めの方法 | 適用例 | 注意点 |
スプリングワッシャー バネの反力と、エッジにより緩みを抑制します。 |
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セルフロックナット ナット先端にばね板を組み込んだナット。ばね板がねじ山を押さえて、ナットを回り難くします。再利用可能です。 |
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ダブルナット アジャストナットの外側にロックナットをかけ、外側のロックナットをアジャストナットに押し付けて、アジャストナットの緩みを防ぎます。 |
その他、スタッドボルトの取り外し・取り付けにも使用する場合があります。 |
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ロックワッシャー 「OUTSIDE」と掛かれている、座面の圧力で形状のワッシャーを圧縮し、ばねの反力でねじを押し付けます。 |
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爪付きロックワッシャー ワッシャーのツメを曲げてナットの面又は溝をロックします。 |
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キャッスルナット キャッスルナットと雄ネジの中をコッターピンを通して緩み止めをする。 |
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ロックピン、コッタピン 雄ネジの中にロックピンもしくはコッタピンを通して、ナットの脱落防止をします。 |
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ロックナット(カシメタイプ) シャフトの溝に合わせて、ナットのツバ部を変形させます。 |
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ネジロック剤
ネジ部分にネジロック剤を塗布し、ネジ部を接着して緩み止めを行います。 |
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プレコートボルト ネジ部に事前に乾燥したネジロック剤でコーティングされたネジ。 | 上記ネジロック剤と同じです。 |
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